骨董品の手入れ道具と使い方:大切な品を長く守る基本
骨董品は種類によって手入れの方法が全く異なり、誤った道具や手順を用いると、かえって品物の価値を損ねてしまいます。
ここでは、代表的な骨董品である日本刀(刀剣)、陶磁器、掛軸・絵画に焦点を当て、必要な道具と正しい手入れの基本を解説します。
Ⅰ. 刀剣(日本刀):手入れ道具と手順
日本刀は錆を防ぐため、定期的な手入れが不可欠です。手入れには刀剣手入れ道具セットを使用します。
1. 必要な道具(刀剣手入れ道具セットに含まれるもの)
道具名 | 用途 |
刀剣油(丁子油) | 刀身の錆を防ぐために薄く塗る油。 |
油布(ネル布など) | 刀剣油を塗るために使用する布。 |
拭紙(ぬぐいし) | 古い油や打ち粉を拭き取るための柔らかな和紙。良質なティッシュペーパーで代用されることもある。 |
打粉(うちこ) | 古い油を吸着・除去するための、砥石の粉末(内曇砥の粉)が入った道具。 |
目釘抜(めくぎぬき) | 柄(つか)を外すための目釘を押し抜く道具。 |
2. 手入れの基本手順
目釘を抜く: 目釘抜を使って、柄に刺さっている目釘を押し抜きます。
柄を外す: 柄を握り、柄頭を手のひらで軽く叩き、刀身(茎/なかご)を柄から外します。
古い油を拭き取る: 拭紙で刀身の茎(なかご)を持ち、古い油を下から上へ(刃の方向へ力を入れず)拭き取ります。
打粉を打つ(酸化した油の除去): 打ち粉を刀身にポンポンと軽く叩きつけます。上拭い用の拭紙で優しく拭き取ります。(打ち粉は研磨剤なので使いすぎに注意)
新しい油を塗る: 油布に刀剣油を染み込ませ、薄く均一に刀身に塗ります。(塗りすぎると鞘を傷めるため厳禁)
元に戻す: 柄、目釘の順に戻し、ゆっくりと鞘に納めます。
【注意点】
素手で触らない: 刀身には絶対に素手で触れないこと。手の汗や脂が錆の原因となります。
手入れの頻度: 白鞘(保管用)は半年に一度、拵え(鑑賞・実用)は2〜3ヶ月に一度が目安です。
Ⅱ. 陶磁器(焼き物):手入れ道具と手順
陶磁器は硬い素材ですが、ひびや衝撃、汚れの染み込みに注意が必要です。
1. 必要な道具
道具名 | 用途 |
柔らかい布(乾いた布) | 普段のホコリや軽い汚れの拭き取り。 |
柔らかいスポンジ | 使用後の洗浄。硬いタワシや研磨材は使わない。 |
中性洗剤 | 軽い油汚れの洗浄。 |
米のとぎ汁 | 陶器の「目止め」(汚れの染み込み防止)に使用。 |
2. 手入れの基本手順
普段の手入れ: 乾いた柔らかい布で、優しくホコリを払う程度で十分です。
洗浄(日常使用の場合):
使用後はすぐに柔らかいスポンジと中性洗剤で優しく洗う。
洗剤をよく洗い流し、完全に乾燥させてから収納する。
陶器の目止め(購入直後):
陶器(土もの)は、購入後に米のとぎ汁などで煮沸し、土の目を塞ぐ「目止め」を行うと、汚れや臭いの染み込みを防げます。
高台の処理: ざらざらした高台(底の輪状の部分)は、サンドペーパーや砥石で軽く削り、収納棚やテーブルを傷つけないようにしておきます。
【注意点】
化学雑巾や科学洗剤の使用厳禁: 陶磁器の染料や絵付けが剥がれる原因となります。
カビ・茶渋: 軽度であれば、無水エタノールやメラミンスポンジ(※細心の注意を払って)で対応できますが、古い骨董品は専門業者に相談してください。
Ⅲ. 掛軸・絵画:手入れ道具と手順
紙や絹は、湿気と紫外線、虫食いが大敵です。水気厳禁で扱います。
1. 必要な道具
道具名 | 用途 |
柔らかい羽箒(はぼうき) | 表面のホコリを優しく払う。 |
清潔な白手袋 | 手の脂や湿気が付着するのを防ぐ。 |
桐箱・ウコン染めの布 | 保管時の防湿、防虫、抗菌。 |
矢筈(やはず) | 掛軸を掛けたり外したりする際に使用する道具。 |
2. 手入れの基本手順
ホコリを払う: 飾っている状態や外す前に、羽箒などで表面のホコリを優しく払います。
取り扱い: 白手袋を着用し、濡れた手や汚れた手で絶対に触らないようにします。
掛軸を休ませる: 掛軸を長期間掛けっぱなしにせず、3日に一度を目安に巻き、桐箱に戻して休ませます。(湿気による反りや変色を防ぐため)
巻き方: 風帯(上部の飾り)がはみ出さないように注意し、巻いた後は桐箱に収納します。
陰干し(虫干し): 年に1~2回、湿度の低い晴れた日を選び、直射日光の当たらない風通しの良い場所で広げて湿気を飛ばします。
【注意点】
水濡れ厳禁: 濡れた手や水滴はシミやカビ、歪みの原因となります。
擦らない: 汚れても濡れ布巾などで擦らず、専門の修復業者に相談してください。